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IDEAS 2004 レポート:セミナー『Practical and Tactical Elements of Testing Acquisition and Technology』

写真:左から、パチェロ氏(男性)、ボーズ氏(女性)、そしてバキス氏(男性)

Webサイトはアクセシブルなだけではなくユーザブル、つまりユーザーにとって使いやすいものでなければならない。このセミナーでは、いかにユーザーテストによる検証を行えばよいのかをテーマにディスカッションが行われた。スピーカーは以下の3名。

  • モデレーター:デビッド・バキス氏(米国アクセス委員会)
  • パネリスト:スーザン・ボーズ氏(米国退役軍人省 E-gov テスト・ディレクター)、マイク・パチェロ氏(ザ・パチェロ・グループ)

なぜユーザーテストを行う必要があるのか?

このセッションのモデレーターでもある米国アクセス委員会(U.S. Access Board)のデビッド・バキス氏が、なぜユーザーテストが必要なのかを解説。

「リハビリテーション法508条のガイドラインに準拠しているかどうかを検証する手段の一つとして、ユーザーテストを行うことはよいことです。ユーザーテストを行うことで、よりアクセシブルにすることができますし、ユーザーにより気づかされることも多いからです。米国アクセス委員会では、Webサイトに限らず、ソフトウェアや通信機器、ビデオ、マルチメディア、コンピュータなど、508条の対象となっているものについて、ユーザによる検証を実施することを推奨しています。そして、障害者ユーザー、およびWeb技術に精通した人、テスティング実施経験者を確保してテストを行うことがポイントです。」(デビッド・バキス氏)

リハビリテーション法508条には、Webコンテンツが準拠していることを認証する制度がない。この点は、日本の JIS X8341-3 と同じだ。ユーザーテストに関しては、JIS X8341-3 には "6.3 検証に関する要件" があり、複数の高齢者および障害者ユーザーを交えて検証を行うようにとあるのに対して、508条はWebコンテンツの制作に関する要件しか規定していない。しかし、508条への準拠が形式だけになっては意味がないし、やはりユーザーが使えるかどうかを確認するプロセスを設けることが、よりアクセシビリティの向上につながるということだ。

ユーザーテストを実践して分かること

米国退役軍人省でユーザーテストの実施を担当するディレクターのスーザン・ボーズ氏は、WebサイトやWebアプリケーションを実際にユーザーテストで検証することで分かることがあると語る。

「退役軍人省は、"Access for Everyone!" というスローガンのもと、アクセシビリティに関する様々な取り組みを実施しています。Webアクセシビリティに関しては、私自身が全盲でスクリーンリーダーのJAWSを使っていますので、508条に準拠して制作したというWebサイトやWebアプリケーションでも、実際に使ってみると首をかしげてしまうことがよくあるのです。例えば、フレームを使用する際には各フレームにタイトルをつけなくてはありませんが、"フレーム1"、"フレーム2"、"フレーム3" というような無意味なタイトルをつけていてはユーザーは困惑するだけです。また、ページの一部分でも一定時間が経過すると自動的にリフレッシュするような仕掛けがあると、スクリーンリーダーはページの先頭部分に戻ってしまい、途中まで読み上げてはページの先頭に戻る、というのを繰り返してしまいます。その他、主なポイントとしてはナビゲーションをスキップするリンク、正しくマークアップされたデータテーブル、画像やマルチメディアの代替テキスト、ビデオのトランススクリプト(視覚的な情報をテキストにした代替コンテンツ)などは、視覚障害を持つユーザーにとってはとても有効です。」(スーザン・ボーズ氏)

画像には代替テキストを記述する、フレームにはタイトルをつける、といったガイドラインには準拠していても、ただ書けばいいというものではない。その記述内容がユーザーにとって意味のあるものでなければ、本当の意味でアクセシブルとはいえないのだ。

"アクセシブルな"ユーザーエクスペリエンスの提供

著書『Web accessibility for people with Disabilities』(日本語訳:『ウェブ・アクセシビリティ すべての人に優しいWebデザイン』)で世界的に著名なマイク・パチェロ氏。ユーザーエクスペリエンスの向上という視点からも、ユーザーテストの実施が必要不可欠だと語る。

「いわゆるアクセシビリティ・チェッカーを使っても自動的にチェックできる部分の確認しかできません。そういった自動的なテストだけでは、本当のユーザーエクスペリエンスを提供することはできないのです。また、専門家によるヒューリスティック評価という手法もありますが、これも全ての問題を把握するには限界があります。ユーザーテストによってユーザーの生の声を聞いて、それを制作者および開発者にフィードバックすることで、実際にユーザーがどのように使っているのかを理解するのに役立つのです。ユーザーテストを実施するのには必ずしも予算をかける必要はありません。例えば、『SnagIt』、『Camtasia』、『WebCam』といった安価なツールを上手に組み合わせて活用することでも実施可能です。できれば、異なる障害の種類ごとに3~4名のユーザーでテストを実施することをお奨めします。リクルーティングにあたっては、障害者団体などに協力を依頼するとよいでしょう。」(マイク・パチェロ氏)

パチェロ氏は、ユーザーテストを実施する際のポイントとして以下のような点を挙げていた。

  • ユーザーテストの結果に依存しすぎないこと
  • できるだけ広範囲の障害を持つユーザーでテストを実施すること
  • ユーザーの特性を理解して何が必要かを見出すこと

皆さんは、アクセシビリティに限らず、これまでにWebサイトのユーザーテスティングを行ったことはあるだろうか? おそらく、まだほとんどの人が "ない" と答えるだろう。パチェロ氏は、"Accessible User Experience (AUE)" という独自の用語を使っていたが、これが米国連邦政府のWebサイトや電子政府、電子自治体のサービスの今後のキーワードになりそうだ。まずガイドラインの基準を満たすことはもちろん重要だが、それはあくまでスタート地点に立っただけと言ってもよいのかもしれない。本当の目的は、ユーザーに利便性を提供することなのだから。

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